クリエイターにとって「フォント」というのはとても大切な存在です。先日、日本のDTP業界において最大手のフォントメーカーであるモリサワが、フォントのクラウドフォントサービス「TypeSquare(仮称)」を2011年度内に提供すると発表しました。詳細はまだ明らかになっていませんが、そもそも「クラウドフォントってなに?」 と興味を持たれているクリエイターさんも多いのではないでしょうか。今回は、これについて触れたいと思います。
フォントがクラウドするとはどういう意味か?
最近は本やチラシ、新聞、ポスターといった紙の印刷物の代わりにパソコンのインターネットブラウザでも同じような内容が提供されるようになってきました。動画再生やハイパーリンク、あるいは検索といったデジタルメディアならではの機能は別として、単純に文字を読み絵を見るというだけでしたら、組版の美しさや文字の表現力という点では印刷物のほうがまだまだ有利でしょう。
文字の表現力の豊かさは使用できるフォントの数に比例します。もちろん、それを配置する組版も重要なのですが、まずは使用できるフォントの種類が大いに越したことはありません。しかし、インターネットブラウザは印刷物と比べて使用できるフォントの数に限りがあります。なぜなら、印刷物は紙という形で読者に配布するため、制作に使用するパソコンに使いたいフォントをインストールするだけでよいのすが、インターネットブラウザに表示させるためには見る側のパソコンにも同じフォントが入っている必要があります。いくらデザイナーが◯◯◯フォントで読者に見せたいと思って指定しても読者のパソコンにそのフォントがインストールされていないと他のフォントに置き換わってしまうのです。Mac OSにしろWindows OSしろ、かなりの数のフォントが標準で搭載されるようになってきていますが、それでも印刷物で利用されてきた日本語フォントはほとんど入っていません。
そこで注目されているのが、Webフォントサービスです。インターネット状のサーバを通じてデザイナーが指定したフォントを読者のインターネットブラウザに表示できるようにするための技術です。このサービスを利用すれば、さまざまなフォントを読者のインターネットブラウザに表示することが可能です。これまでパソコンに標準で搭載されていないフォントは画像化して絵として貼り付けていたわけですが、Webフォントを使えばテキストとして表示できるので、インターネットの検索エンジンにも引っ掛かるようになります。
海外では多数のWebフォントサービスが開始されていますが、日本でもシーサーの「デコもじ」がすでにサービスを開始しており、7月27日にソフトバンク・テクノロジーが「フォントプラス」というサービス名で開始しました。「フォントプラス」は、200書体以上が利用可能で、月額1050円(入会金1万500円が必要)のプランから用意されており、1カ月の無料トライアルもあります。そして、このサービスで採用されているのが、モリサワの競合であるフォントワークスのフォントです。イワタやモトヤのフォントにも対応する予定ですが、モリサワにとってフォントワークスがいち早くWebフォント市場に参入したことは最大手のメーカーとし見過ごすことはできないでしょう。モリサワのクラウドフォントサービス「TypeSquare」は、このWebフォントサービスと同じようなものだと予想されます。
かつて、写植機時代に書体メーカーの最大手だった写研が、パソコンで使用するDTP用のフォントへの参入を渋り、積極的に対応を進めていたモリサワがこの分野においてナンバー1の座につくことができました。そして、書体メーカーとしては後発のフォントワークスがナンバー2になり、写植機からDTPに時代が切り替わる過程で写研のフォントを使用した印刷物はほとんど見かけなくなりました。そのモリサワが今度はWebフォントサービスでフォントワークスに一歩遅れを取ってしまいました。「TypeSquare」がどの程度フォントプラスのサービス開始を意識して発表されたものか不明ですし、内容もまったく公表されていないので実際にどこまで進んでいるのか検討もつきませんが、この分野で写研と同じ道を辿らないためには早急に対応しなてくてはならないことだけは確かです。
Webフォントは事業拡大のビジネスチャンス
モリサワはこれまで「フォントを作るのはたいへんな作業で儲からない」と発表会の場でこぼすことがありました。欧文は1フォントあたりの文字数がたいしたことはありませんが、日本語は多いもので2万3000文字以上も用意しています。モリサワにしろフォントワークスにしろ、日本のフォントメーカーは、これを1文字1文字デザインしているわけで、本当に気の遠くなるような作業を日々続けています。当然ながらかなりの制作コストが発生するはずですが、「文字を通じて社会に貢献する」という経営理念を掲げているモリサワとしては、いくら手間がかかっても価格を高額に設定するわけにはいかないでしょう。せっかくフォントを作ってもユーザーに使ってもらわなければ意味がありませんから、リーズナブルな価格で提供する必要があります。
2005年にサービスを開始した「MORISAWA PASSPORT」は、年額5万2500円で全504書体(モリサワフォント435書体、ヒラギノフォント69書体)を利用することができるというものです。年間契約のライセンスサービスは、2002年からフォントワークスが「LETS」(年額3万7800円+入会金3万1500円から)という名称でスタートさせて業績を急激に伸ばしており、モリサワとしても参入せざるを得なかったのですが、全書体を低価格で提供することで多くのユーザーにさまざまなフォントを利用してもらいたいという願いも込められていたと思います。
「MORISAWA PASSPORT」という新たな選択肢は多くのユーザーに歓迎され、モリサワとしてもパッケージのような売り切りタイプとは違って定期的に収入が得られるようになりました。しかし、利用するのはデザイナーや出版社、TV局、ゲームメーカーといった既存の業界に限られてしまうため業績を飛躍的に伸ばすというものではありません。ところが、収益は伸びないのに新しいOSや技術には次々と対応しなくてはならないし新しいフォントも追加したい…モリサワが儲からないとこぼしても仕方のない話です。しかし、Webフォントサービスは、インターネットという新たな分野に向けた事業であり、新規の顧客獲得も大幅に見込むことができます。インターネット分野への進出は、昨年サービスを開始した電子書籍制作ビジネス「MCBook」に続いて大きなビジネスチャンスのはずです。
もちろん、Webフォントサービスが本当に必要なものなのか、そして今後積極的に採用されていく傾向にあるのか、まだ不安な要素もたくさんありますが、久々に事業を拡大するチャンスであることは間違いないでしょう。そしてそれは、多くのクリエイターにとって実に興味深い話でもあります。モリサワがどのような発表をしてくるのかが楽しみです。
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